1 脅迫罪の成立要件

脅迫罪というのは、被害者やその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に害を加える旨を告知する行為をすることで成立する犯罪です(刑法222条)。

このように、脅迫罪が成立するためには害を加える旨の告知(害悪の告知)を行わなくてはなりませんが、一般に同じ状況下に置かれた人が畏怖すると判断される程度の害悪の告知があれば脅迫罪が成立します。
そのため、害悪の告知の程度がこれに至っている場合には、実際に被害者が畏怖しなかったとしても脅迫罪が成立します。
逆に、困惑させたり、不快感や威圧感を与えたりする程度のものでしかない場合には、畏怖したとは認められないため、脅迫罪は成立しません。

また、害悪の告知は、必ずしも明示的に行う必要はありません。
例えば、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」といった手紙を送る行為や、「夜道に気をつけろ」といったメールを送る行為も、その被害者が置かれた状況に鑑みると脅迫罪が成立することもあります。
なお、「弁護士に相談する。」、「警察に相談する。」と告知することは、それ自体は、被害者を畏怖させかねない表現ではありますが、法的あるいは刑事上のトラブルに巻き込まれた際に、これらに相談する行為は適法で、いわば当たり前の行動ですので、このような発言は害悪の告知には該当せず、脅迫罪は成立しません(もっとも、美人局のように、相手を畏怖させて金銭を巻き上げようとする意図でこのような告知をすることは、脅迫罪が成立する場合もあります)。

以上のような説明からすると、脅迫罪の成立範囲は幅広く感じられるかもしれませんが、実際には脅迫罪そのものが成立する場面というのはあまりありません。
というのも、脅迫行為をして財産を奪う場合には、強盗罪や恐喝罪が成立しますし、脅迫行為をして義務のない行為を行わせた場合には強要罪が成立します。
また、会社(法人)に向けて害悪の告知をしたとしても、会社が畏怖するということはないため、会社に対する脅迫罪は成立しませんが、会社に対する威力業務妨害罪が成立します。
このように、脅迫罪というのは、実際には脅迫罪そのもので検挙されるというより、他の犯罪の手段となっている場合が多いのが実情です。

2 脅迫罪の罰則

脅迫罪に該当した場合には、2年以下の懲役(拘禁刑)または30万円以下の罰金に科せられます。
そのため、罰金刑で収まったり、執行猶予が狙えたりするなど、他の犯罪に比べてその法定刑は軽い犯罪類型といえますが、その犯行態様や悪質性などの事情によっては実刑判決を受ける可能性も否定できません。

3 脅迫事件の刑事手続の流れ

脅迫事件の場合であっても、刑事手続きの流れは、他の刑事事件と同様です。
つまり、逮捕(最長3日間身体拘束)、勾留(10日間の身体拘束、さらに10日間の延長の可能性あり)、刑事処分という流れになります。
そして、脅迫罪の場合、前記のように、罰金刑もありますので、刑事処分は公判請求、略式請求、起訴猶予ないし不起訴のいずれかになります。

もっとも、ひとえに脅迫罪が成立するといっても、その実際の犯行態様によって悪質性はまちまちであり、比較的軽微な態様の場合には、そもそも逮捕・勾留がなされない場合もあります。
2023年の検察統計調査によると、逮捕された場合にはほぼ全件で引き続き勾留されていますが、それ以前に、逮捕される割合については約56%に留まっています。
また、勾留された場合であっても、そのうち起訴猶予ないし不起訴の割合は約67%ですので、早期に解放されている事例が多い傾向にあります。

ただし、客観的証拠があるにもかかわらず犯行を否認している場合や、元配偶者や元交際相手といった相手に対する脅迫行為の場合には、他の類型に比べて逮捕される可能性は高いでしょう。

4 脅迫事件における弁護活動

弁護活動は、脅迫罪の成立を争うかどうかによって変わります。

まず、脅迫罪の成立を争わない場合には、被害者との示談交渉を成立させることを最優先に考えます。
前記のように、脅迫罪は比較的軽微な犯罪類型ですので、不起訴や執行猶予の獲得には、示談を成立させることが非常に有効です。
また、再犯防止の観点から、被害者やその関係者とは今後接触しないように誓約書を書いてもらうようにします。
なお、謝意を伝えるために被害者に向けた謝罪文を書いてもらうという方法も考えられますが、被害者によっては加害者とは一切接触したくないという方もいるため、これについてはケースバイケースでしょう。

他方で、脅迫罪の成立を争う場合には、害悪の告知をしたとする客観的証拠の有無を争うことになります。
また、捜査機関からの取調べを受け、その内容を調書として作成することになりますが、多くの場合、自身の認識と作成される調書の内容との間にニュアンスの違いが生じます。
そのような違いにより、裁判官に不利に扱われないようにするため、不必要な発言をしないようにアドバイスをしていきます。

なお、脅迫罪の成立を争うか争わないかに関わらず、逮捕・勾留されている場合には、一刻も早い社会復帰をすべく、勾留や勾留延長の阻止に向けた準抗告(不服申立て)をしていくことになります。

5 弁護士にご相談ください

脅迫罪は、一見すると身近な犯罪ではなく、自身とは無縁の犯罪類型のように感じられます。
もっとも、自身ではそのように思っていない場合であっても、相手が全く別の意味にはき違えて捉えられてしまう場合や、相手が言葉尻を捕らえて過剰に反応してしまうこともあり得ます。
特に、異性など近しい関係の人が相手の場合には、ふとしたことで行き過ぎた言動に至ってしまうことも珍しくないでしょう。

このように、脅迫罪は、誰でも行うことができる犯罪であり、明確に身に覚えがなくても、ある日急に検挙される可能性がある犯罪類型と言えます。
当然、そのような方は、これまで刑事事件の加害者になったことはない人がほとんどであると思われますので、いきなりのことでパニックに陥るでしょう。

そのため、脅迫罪で検挙された場合には、速やかに弁護士に相談し、弁護士とともに弁護方針を決めることが不可欠です。
当事務所では、刑事事件の経験豊富な弁護士が在籍しており、充実した弁護活動を行うことができます。
脅迫罪について不安・疑問がある方は、当事務所にご相談ください。

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