1 不同意わいせつ罪とは

不同意わいせつ罪とは、刑法第176条に規定されており、相手の同意がない状況でわいせつ行為をすることを処罰する犯罪です。

刑法第176条は、第1項、第2項、第3項で、次の3つの種類の不同意わいせつ罪を規定しています。

(1)第1項:相手が同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状況でわいせつ行為をすること

第1項では、以下の①~⑧のいずれかを原因として、同意しない意思を「形成」、「表明」、または「全う」することが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じて、わいせつ行為をした場合に、不同意わいせつ罪として処罰することを規定しています。

①暴行または脅迫
②心身の障害
③アルコールまたは薬物の影響
④睡眠その他の意識不明瞭
⑤同意しない意思を形成、表明または全うするいとまの不存在(例:不意打ち)
⑥予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚がく(例:フリーズ)
⑦虐待に起因する心理的反応(例:虐待による無力感・恐怖感)
⑧経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮(例:祖父母と孫、上司と部下、教師と生徒などの立場ゆえの影響力によって、不利益が生じることを不安に思うこと)

同意しない意思を「形成」することが困難な状態とは、性的行為をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけや能力が不足していて、性的行為をしない、したくないという意思を持つこと自体が難しい状態をいいます(法務省「性犯罪関係の法改正等 Q&A」より)。
同意しない意思を「表明」することが困難な状態とは、性的行為をしない、したくないという意思を持つことはできたものの、それを外部に表すことが難しい状態をいいます(同上)。
同意しない意思を「全う」することが困難な状態とは、性的行為をしない、したくないという意思を外部に表すことはできたものの、その意思のとおりになることが難しい状態をいいます(同上)。

(2)第2項:相手が勘違いしている状況でわいせつ行為をすること

第2項では、行為がわいせつなものではないとの誤信をさせたり、行為をする者について人違いをさせたり、または、それらの誤信・人違いをしていることに乗じて、わいせつ行為をした場合も、不同意わいせつ罪として処罰することを定めています。

(3)第3項:16歳未満の相手に対してわいせつ行為をすること

第3項では、16歳未満の者に対しては、わいせつ行為をするだけで、第1項と同じく不同意わいせつ罪として処罰することを定めています。
これは、16歳未満の者は、性的な行為をするかどうかについて正しく判断できないため、同意があっても有効といえないことを根拠としています。
性的な同意ができる年齢が、以前の13歳から16歳に引き上げられています。

ただし、行為の相手が16歳未満であっても13歳以上の場合は、行為者が5歳以上の年上である場合に限り、同意があっても不同意わいせつ罪として処罰すると定めています。

2 不同意わいせつ罪に当たる行為の具体例

刑法第176条に規定されている3つの種類の不同意わいせつ罪を見てきましたが、次に、
不同意わいせつ罪に当たる行為の具体例について紹介します。

まず、同じ性犯罪として、不同意性交等罪がありますが、この「性交等」は、性交、肛門性交、口腔性交、性器や肛門に身体の一部または物を入れる行為に限られています。
そして、これら以外の性的な行為が、わいせつ行為として、不同意わいせつ罪の対象となります。
わいせつ行為の例としては、陰部をさわる、胸をもむ、服の中に手を入れて体をさわる、キスをする、抱きしめる、などがあります。

次に、不同意わいせつ罪に当たる行為の具体例を列挙します。
〇殴る蹴るなどして陰部をさわる⇨第1項1号
〇体を押さえ付けて胸をもむ⇨第1項1号
〇睡眠薬を飲ませて胸をもむ⇨第1項3号または4号
〇美容師がうたた寝している客の体をさわる⇨第1項4号
〇追い抜きざまに体をさわる⇨第1項5号
〇痴漢行為がエスカレートして陰部をさわる⇨第1項6号
〇教師が生徒に圧をかけてキスをする⇨第1項8号
〇医師が正当な医療行為であると患者を信じさせて胸をもむ⇨第2項
〇整体師・マッサージ師が正当な施術行為であると信じさせて胸をもむ⇨第2項
〇性行為中に相手に目隠しをさせ、別人が体をさわる⇨第2項

3 不同意わいせつ事件の刑事手続の流れ

不同意わいせつ事件は、事件の重大性から、逮捕される可能性の高い事件であるといえます。
また、当初は逮捕されずに取り調べ(事情聴取)が行われていたとしても、捜査の進展により、後日逮捕されることもあります。

不同意わいせつ事件で逮捕されると、逮捕された日の翌日か翌々日に検察庁に行き、検察官の取り調べを受けることになります。
そして、ここでも、事件の重大性から、検察官が勾留請求を行い、裁判所から勾留決定が出される(勾留される)可能性は高いといえます。
勾留されれば、少なくとも10日程度、一般的には20日以上警察署で身体拘束されることになります。
勾留後は、警察・検察の捜査や取り調べが本格化していきます。
そして、基本的には勾留の期間内に、検察官は公判請求(起訴)を行います。
公判請求(不同意わいせつ罪で起訴)後は、保釈されない限り、身体拘束が継続されることになります。

不同意わいせつ事件の逮捕後の刑事手続の流れは、次のとおりとなります。

〇警察による逮捕、送検(事件を検察官へ引き継ぐ)

〇検察官の取り調べ(勾留請求するかどうかが判断される)、勾留請求

〇裁判官の勾留質問(勾留するかどうかが判断される)、勾留決定

〇勾留請求から10日間、もしくは20日間身体拘束される

〇検察官の公判請求(不同意わいせつ罪で起訴する)

〇公判請求後は、保釈されない限り、身体拘束が継続される

4 不同意わいせつ事件の刑事弁護のポイント

(1)不同意わいせつの事実を認める場合

さきほど述べたとおり、不同意わいせつ事件では、逮捕される可能性が高く、逮捕後の勾留についても、ほとんどがそのまま勾留され、身体拘束が続きます。
そのため、不同意わいせつに当たる行為をしてしまった場合には、逮捕される前にすぐに弁護士に相談するのがよいでしょう。
逮捕前に、あるいは逮捕されてしまった場合でもすぐに相談があれば、弁護士は、取り調べに対するアドバイスや釈放に向けた弁護活動を迅速に行うことができます。
これにより、早期の釈放の可能性も上がります。

不同意わいせつの事実を認める場合、被害者に対する被害弁償(示談)がとても重要なポイントになります。
被害者は、加害者とやり取りすることを拒否することがほとんどですので、弁護士を通して、被害者と示談交渉をしていくことになります。
弁護士は、警察官または検察官に対して、被害者の連絡先を教えてもらうよう要請し、連絡先が伝えられたら、被害者と示談交渉を進めていきます。

示談が成立すれば、不起訴処分(起訴猶予)になる可能性が高まります。
また、示談が成立すると、逮捕・勾留されていても、釈放される場合が多いです。
さらに、不同意わいせつ罪で起訴されてしまったとしても、示談できているかどうかは、執行猶予判決を得られるかどうかに大きく関わってくるため、弁護士は、起訴前に示談がまとまらなかったとしても、起訴後も引き続き積極的に示談交渉を行います。

また、不同意わいせつ罪で起訴された場合、示談の成否に加えて、二度と不同意わいせつ行為を行わないための環境づくりが、再犯防止の観点から重要となってきます。
そして、弁護士は、その環境作りのサポートをしていくことになります。

(2)不同意わいせつの事実を否定する場合

不同意わせいつの事実を否定する場合、多くは、相手との間に性的な行為の同意があったかどうかが争われることになります。
ここでは、性的な行為があった当時の相手とのやり取りなどの記録が重要なポイントとなります。
弁護士は、性的な行為に対する相手の同意を裏付ける証拠の確保に努めます。
また、防犯カメラなどの客観的な証拠がある場合には、弁護士が早期に収集します。

また、取り調べで話をしたことは、極めて重要なポイントとなります。
弁護士のアドバイスなしに取り調べを受けると、自分では意図していない方向で自分の供述が利用されるおそれがあります。
自分でも気づかずに、自分にとって不利な内容で供述調書が作られてしまう可能性があるわけです。
弁護士は、そのような供述調書が作られないように、取り調べに対するアドバイス(黙秘のアドバイスを含む)を行います。

5 不同意わいせつ事件で弁護士を付けるメリット

不同意わいせつ事件で弁護士を付けることにより、次の可能性を高めることができます。
①被害者と示談が成立する可能性
②逮捕されない可能性
③身体拘束からの早期解放の可能性
④実名報道されない可能性
⑤前科がつかない可能性

(1)被害者と示談が成立する可能性を高める

不同意わいせつ事件の被害者は、加害者とやり取りすることを拒否することがほとんどです。
したがって、被害者と示談交渉をするためには、弁護士を通して行う必要があります。
弁護士は、警察官または検察官に対して、被害者の連絡先を教えてもらうよう要請し、連絡先が伝えられたら、被害者と示談交渉を進めていきます。

弁護士は、被害者と接触する場合には、細心の注意を払い、豊富な示談交渉の経験に基づいて、被害者の心情に配慮したやり取りを心がけます。
このようにして、弁護士であれば、被害者の心情に配慮しながら、示談交渉を進めることができますので、示談が成立する可能性が高まります。

(2)逮捕されない可能性を高める

相手(被害者)が警察に被害届を出さない限り、刑事事件にはなりません。
そのため、不同意わいせつの事実を認める場合には、相手が警察に被害届を出す前に、弁護士を通じて示談をすれば、刑事事件になることを防ぐことができます。
刑事事件にならなければ、もちろん逮捕されることもありません。
したがって、弁護士を付けることで、示談を成立させ、逮捕されない可能性を高めることができます。

また、追い抜きざまに体をさわるなどの不同意わいせつ行為の場合、相手が誰なのか分からず、相手と示談をすることができません。
しかしその場合でも、不同意わいせつの事実を認める場合には、自首をすることで、逮捕されない可能性を上げることはできます。
自首をすることで、逮捕の要件である、逃亡のおそれと証拠隠滅のおそれが低下するからです。
ここでは、弁護士が事情を入念に聞き取り、様々な要素を考慮して、警察が事件化する可能性や事件化したとして逮捕する可能性を判断し、逮捕される可能性が高い場合には自首を勧め、一緒に警察署に出頭して自首することになります。
その上で、逮捕の回避を求める意見書を持参し、弁護士が警察官を説得することで、逮捕されずに在宅捜査で事件を進めることができる可能性があります。

(3)身体拘束からの早期解放の可能性を高める

逮捕された場合には、弁護士は勾留を避けるための弁護活動を行います。
検察官に対しては勾留請求をしないように、裁判官に対して勾留決定をしないように説得するための意見書を提出し、説得します。
意見書ともに、被疑者となった依頼者の誓約書やその家族の身元引受書、逃亡や罪証隠滅の可能性が低いことを示す疎明資料を提出します。
勾留となれば、長期間の身体拘束の可能性が高く、職場から解雇されたりすることもあります。
依頼を受けた弁護士が速やかに身体拘束からの解放のために活動することで、そのような不利益を避けられる可能性が高まります。

(4)実名報道されない可能性を高める

実名報道される可能性があるのは、逮捕されたときです。
そのため、逮捕されることを防げれば、実名報道されることもありません。
したがって、ここでも、弁護士を付けることで、示談を成立させ、逮捕されることを防いで、実名報道されない可能性を高めることができます。

(5)前科がつかない可能性を高める

裁判で有罪判決を受けると、前科がつきます。
前科がつくと、就職や転職で不利益を被る可能性もあり、近年はとくに、性犯罪の前科について厳しくチェックされる傾向にあります。

前科を回避するためには、不起訴処分を獲得するか、起訴された後の裁判で無罪判決を獲得するかのいずれかになります。
日本の刑事裁判の有罪率は99.9%で、起訴されればほぼ有罪となっています。
他方で、不同意わいせつ罪(強制わいせつ罪)の不起訴率は約60%(2023年検察統計)となっています。
そのため、前科がつかないようにするには、不起訴を獲得して起訴されないことが第一であるといえます。
そして、不同意わいせつの事実を争わないのであれば、被害者と示談をすれば、不起訴となる可能性が高まります。
そのためには、これまで何度も述べてきたとおり、依頼を受けた弁護士が、警察官・検察官を通じて被害者の連絡先を把握し、被害者と連絡を取り、示談交渉を行うことで、示談を成立させることができます。

これに対して、不同意わいせつの事実を否定する場合には、嫌疑不十分で不起訴となる可能性を高めることが考えられます。
そのためには、警察官や検察官のプレッシャーに耐えて、自白を取られないようにすることが大切であり、弁護士が頻繁に面会して、精神的にサポートすることが重要となってきます。

6 弁護士にご相談ください

刑事事件に巻き込まれた際に、「どのような弁護士に相談・依頼するか」ということは,非常に重要な問題です。
刑事事件には、民事事件と異なる刑事事件特有の知識や手続の理解、対応が必要となります。
そのため、普段から刑事事件を取り扱っていない弁護士に相談・依頼するのはリスクがあるといえます。
刑事事件に関して相談・依頼する際には、刑事弁護の経験が豊富な弁護士に相談・依頼することをお勧めします。

刑事弁護の経験が豊富にある弁護士に相談・依頼すれば、早い段階で弁護方針が固まり、その弁護方針に沿ってすぐに行動し、示談や身体拘束の解放に向けた活動も迅速に行います。
そして、このことにより、警察・検察の処分や裁判所の判決が依頼者にとって有利になる可能性が高まります(逮捕の回避、勾留の阻止、保釈の獲得、不起訴処分の獲得、執行猶予判決の獲得など)。
不同意わいせつ事件に巻き込まれた場合には、いち早く、刑事弁護の経験が豊富にある弁護士に相談ください。

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