ストーカーという言葉は、すでに社会的に定着していますが、実際、どのような行為が法律で規制されているストーカーに該当するか、正確に理解している方は多くはないのではないでしょうか。
このページでは、ストーカー犯罪に適用される法律や罰則、規制の対象となっている行為態様、ストーカー事件における弁護活動や、弁護士にご依頼いただくメリットについて、解説いたします。
1 ストーカー犯罪に適用される法律と罰則
(1)ストーカー犯罪に適用される法律
ストーカー行為については、基本的にストーカー行為等の規制等に関する法律(以下、「ストーカー規制法」といいます。)によって規制されています。
仮にストーカー行為がエスカレートしてしまった場合には、刑法に定められている住居侵入罪や脅迫罪、不同意わいせつなどが適用されることとなります。
(2)ストーカー犯罪に適用される罰則
ストーカー規制法において定められている、ストーカー行為に対する罰則の具体的な内容は、以下のとおりです。
・ストーカー行為をした者:1年以下の懲役または100万円以下の罰金(18条)
・禁止命令等に違反してストーカー行為をした者:2年以下の懲役または200万円以下の罰金(19条) ・禁止命令等に違反した者:6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(20条) |
公安委員会は、ストーカーを行った人物に対して、つきまとい等や位置情報無承諾取得等を禁止する命令(禁止命令等)を発することができます。
この禁止命令を受けたのにもかかわらず、これに違反してストーカー行為をした場合や、禁止された行為以外の方法によるストーカー行為をした場合は、19条が適用されることとなります。
2 ストーカー犯罪の行為態様
ストーカー規制法では、ストーカー行為を、同一の者に対して「つきまとい等」、または「位置情報無承諾取得等」を反復して行った行為であると規定しています。
そのうえで、「つきまとい等」及び「位置情報無承諾取得等」について、①目的、②対象者、③行為態様の3つの観点から規定しています。
(1)目的
ストーカー行為の規制となるのは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する恨みの感情を満たす目的で行動している場合に限定されています。
そのため、単なる嫌がらせ目的の場合は、別の法令等の処罰の対象になる可能性がありますが、ストーカー規制法の対象とはなりません。
(2)対象者
これに加えて、ストーカーの行為の対象は、好意の感情や恨みの感情を抱いている直接の相手方に限られません。
以下の人物を対象にした場合も、ストーカー規制法の対象となります。
・配偶者
・直系の親族(例:子、両親)
・同居している親族(例:兄弟姉妹、叔父、叔母)
・社会生活において密接な関係を有する者(例:婚約者、親密な友人)
(3)行為態様
「つきまとい等」及び「位置情報無承諾取得等」の行為態様は、以下のように定められています。
①つきまとい、待ち伏せ等 | つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等(住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、または住居等の付近をみだりにうろつくこと |
②監視しているような事実の告知等 | 行動を監視していると思わせるような事項を告げ、または、その知り得る状態に置くこと |
③面会や交際の要求等 | 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること |
④乱暴な言動 | 著しく粗野または乱暴な言動をすること |
⑤無言電話、連続した電話等 | 電話をかけて何も告げず、または拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、もしくは、電子メールの送信等をすること |
⑥汚物の送付等 | 汚物、動物の死体その他の著しく不快または嫌悪の情を催させるような物を送付し、または、その知り得る状態に置くこと |
⑦名誉毀損 | その名誉を害する事項を告げ、または、その知り得る状態に置くこと |
⑧性的な羞恥心の侵害 | その性的羞恥心を害する事項を告げ、もしくは、その知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送付し、もしくは、その知り得る状態に置き、または、その性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し、もしくはその知り得る状態に置くこと |
⑨GPS機器等を用いて位置情報を取得する行為等 | 承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を、政令で定める方法により取得すること |
⑩GPS機器等を取り付ける行為等 | 承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付すること、その他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること |
①つきまとい、待ち伏せ等 | つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等(住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、または住居等の付近をみだりにうろつくこと |
②監視しているような事実の告知等 | 行動を監視していると思わせるような事項を告げ、または、その知り得る状態に置くこと |
③面会や交際の要求等 | 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること |
④乱暴な言動 | 著しく粗野または乱暴な言動をすること |
⑤無言電話、連続した電話等 | 電話をかけて何も告げず、または拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、もしくは、電子メールの送信等をすること |
⑥汚物の送付等 | 汚物、動物の死体その他の著しく不快または嫌悪の情を催させるような物を送付し、または、その知り得る状態に置くこと |
⑦名誉毀損 | その名誉を害する事項を告げ、または、その知り得る状態に置くこと |
⑧性的な羞恥心の侵害 | その性的羞恥心を害する事項を告げ、もしくは、その知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送付し、もしくは、その知り得る状態に置き、または、その性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し、もしくはその知り得る状態に置くこと |
⑨GPS機器等を用いて位置情報を取得する行為等 | 承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を、政令で定める方法により取得すること |
⑩GPS機器等を取り付ける行為等 | 承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付すること、その他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること |
なお、以上の行為態様のうち、①から④までの行為と、⑤の行為のうち、電子メールの送信等の行為(電子メールやSNSメッセージの送信等)については、「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合」に限定されています。
他方で、その他の行為態様については、このような要件は課されていません。
これは、⑤の電話やFAX、文書の送付といった行為や、⑥から⑩までの行為の態様は、被害者に不安を覚えさせるようなものであるので、別途要件が課されませんでした。
3 ストーカー事件における弁護士の活動内容
ストーカー事件において、弁護士が依頼を受けた際、いまだに逮捕前なのであれば、逮捕を回避するための弁護活動、仮に逮捕後であれば、早期の身柄解放と不起訴処分へ向けた活動をしていくこととなります。
弁護士は、ご依頼いただく事案によって柔軟に活動することとなりますが、おおむね以下の活動を行います。
(1)謝罪・示談交渉
いずれの場面であっても、弁護士は早期に被害者の方と示談が成立するように交渉するとともに、加害者の謝罪の意を伝えます。
被害者の方と示談が成立した場合、逮捕のリスク、起訴のリスクが減り、仮に起訴されて刑事裁判となった場合であっても、事案によっては減刑や執行猶予判決を得られる可能性が高くなるといえるでしょう。
また、身柄拘束からの解放のための活動をしていくにあたっても、示談が成立しているという事実は、加害者にとって有利な事情の一つであるといえるでしょう。
(2)逮捕回避に向けた活動・自首への同行
被害者が事前に警察に対して相談しているようなケースや、今後相談することが見込まれるようなケースであれば、警察に対して、加害者は現時点で深く反省していること、今後被害者には一切会わず、捜査へも積極的に協力すること、逃亡や証拠隠滅のおそれはないこと、被害者の方とも示談交渉中であること等を主張し、逮捕されてしまうことの回避を目指します。
他方で、ストーカー事件自体や、加害者を警察が認識していない場面において、加害者が一人で自首する勇気を持てないような場合には、弁護士が自首に同行することも可能です。
(3)身柄の解放に向けた活動内容
加害者が逮捕され、その後勾留されてしまった場合、勾留期間は最大20日間にも及ぶこととなりかねません。
そのため、検察官への働きかけや、裁判所に対し、勾留決定に対する異議申立て等を行うことにより、身柄解放のための活動を行っていきます。
また、仮に勾留されたまま起訴されてしまった場合には、加害者と協議の上、裁判所に対して保釈請求をすることにより、身柄の解放を目指します。
(4)その他の環境調整
ストーカー事件の加害者にも事件に至ってしまう様々な背景がありますが、被害者から拒絶されているにもかかわらず、好意または恨みの感情を持ちつつ関係を維持しようとしてアプローチを繰り返してしまう点が共通します。
このような感情に深く関わるものに関して、自分の意識だけでストーカー行為をやめるのは決して容易ではありません。
弁護士としては、加害者が適切に更生していくことができるよう、精神科への通院等を積極的に働きかけて環境調整を行うとともに、これに関する証拠を、捜査機関や裁判所に提出することにより、再犯のおそれがないことを主張し、不起訴処分や減刑等を求めていきます。
また、ストーカー事件の特徴としては、問題となる行動が1度だけ行われるのではなく、複数回にわたって反復して行われることが挙げられます。
加害者がこれをやめるためには、病院への通院の他、家族のサポートも大切になってきます。
そのため、必要があれば、弁護士から、加害者の家族に対して、サポートの必要性を改めて説明し、加害者が適切に更生していくことができるよう、活動していくこともあります。
4 ストーカー事件の刑事弁護を弁護士にご依頼いただくメリット
(1)強い味方がいる状況で対応していくことができる
弁護士を依頼することにより、捜査機関や被害者に対してどのように対応していくべきなのかといった事項や、様々な疑問点について、専門的な知識に基づいてアドバイスを受けながら対応していくことができます。
(2)被害者に謝罪し、示談交渉することができる可能性
ストーカー事件において、直接加害者と会って謝罪してもらいたいと考えている被害者はおらず、加害者に対して非常に大きな恐怖心を抱いています。
そのため、加害者が弁護士を依頼せずに直接謝罪や示談交渉をすることは現実的に非常に困難であり、逆に連絡を取ろうとすることにより、改めて警察へ被害申告がなされることになりかねません。
もっとも、第三者である弁護士が窓口となった場合には被害者の方が連絡に応じてくれる可能性があるため、謝罪文を渡すことや示談交渉をしていくことが可能となるでしょう。
(3)不起訴処分・減刑の可能性
弁護士が加害者から依頼を受けている場合、被害者との示談書や加害者の通院状況に関する証拠を、検察官や裁判所に対して提出し、対応していくこととなります。
その結果、不起訴処分となる可能性が高まり、仮に起訴されてしまった場合であっても、求刑よりも減刑された判決を得ることができる可能性があります。
5 弁護士にご相談ください
ストーカー事件においては、加害者が更生するために積極的に活動していく必要があります。
もっとも、被害者や捜査機関に対して適切に対応をしていくためには、弁護士の存在・活動が非常に重要となってきます。
ストーカー事件の刑事弁護についてお困りの方がいらっしゃいましたら、お早めに当事務所にご相談ください。
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