1 ひき逃げの概要と罰則
交通事故が発生した際、車両の運転者には、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じる義務が発生します(道路交通法72条1項前段)。
ひき逃げとは、人身事故が発生した際に、上記救護義務や危険を防止する措置を講じる義務に違反することを指します。
具体的には、人身事故を起こし、被害者が負傷しているのに気づいたにも関わらず、救護などをしない場合がこれにあたります。
他方、事故の発生や被害者の負傷に気付かなかった場合はひき逃げにはあたらない(故意を欠く)ということになります(接触のない事故の場合や、見通しが悪く人と接触したとは思わなかった場合などが考えられます。)。
なお、ひき逃げと呼ばれますが、歩行者を死傷させた場合のほか、車両同士の事故で車両の運転者・同乗者を負傷させた場合を含みます。
自己の運転に起因して人を死傷させた場合のひき逃げには、10年以下の懲役または100万円以下の罰金という法定刑が定められています。
なお、ひき逃げに関連し、交通事故が発生した際、交通事故発生日時等を警察官に報告する義務も発生しますが(道路交通法72条1項後段)、自ら事故を起こした場合に問題になるのは主に上記の救護義務違反等となります。
他方、ひき逃げとはあくまで事故後の救護義務等についての違反であり、運転によって人を死傷させたことについては、別途、過失運転致傷などの罪が問題となります。
2 当て逃げの概要と罰則
交通事故の中でも、人を死傷させる被害が発生していない物損事故の場合に、道路交通法72条1項前段の定める道路における危険を防止する措置を講じる義務に違反した場合を当て逃げと呼びます。
当て逃げの法定刑は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
警察官への報告については、ひき逃げ同様、主に道路における危険を防止する措置を講じる義務の違反が問題になります。
物損の発生については、犯罪が成立するのが故意の器物損壊罪に限られるため、過失に基づく事故で他人の自動車を損壊させた場合であれば、この点に関する犯罪は成立しません。
3 ひき逃げ・当て逃げが刑事事件になった場合の手続の流れ
ひき逃げ・当て逃げについては、現場から逃亡しているとはいえ、ナンバープレートや現場付近の防犯カメラにより刑事事件として立件される可能性が高いです。
手続の流れとしては、逮捕・勾留により身柄を拘束して捜査する場合と、逮捕・勾留をせず、在宅で捜査を進める場合があります。
逮捕・勾留がされるのは罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれが認められる場合であるところ、現に証拠を残すまいと現場から逃亡しているひき逃げ・当て逃げは、逮捕・勾留の可能性があります。
特に、ひき逃げについては、法定刑が高いうえ、過失運転致傷なども別途問題になることから、厳罰を避けるために逃亡をするおそれが認められるとして、逮捕・勾留の可能性が高いといえるでしょう。
逮捕・勾留は最長で合計23日であり、この期間内に捜査を尽くしたうえで、検察官において、不起訴、略式起訴、起訴の処分を決定することになります。
不起訴とは特段の処分を行わないこと、略式起訴とは簡易な手続きで罰金のみを科すこと、起訴とはいわゆる正式裁判を行うことを指します。
在宅事件の場合、逮捕・勾留のような期間の制限がないため長期化する可能性が高いですが、捜査を尽くした段階で、同様に、検察官において上記のいずれかの処分を決定することになります。
4 ひき逃げ・当て逃げで捜査対象となった場合の対応
在宅でひき逃げ・当て逃げの嫌疑がかけられた場合、任意での取調べに協力しないと、逮捕・勾留される可能性が高まることから、取調べには応じるのが無難でしょう。
そして、ひき逃げ・当て逃げの事実に間違いがなければ、事実を認め、反省の態度を示すことで、逮捕・勾留を避けたり、より軽い処分を獲得したりすることが期待できます。
他方、事故の発生に気付かなかった等の理由で、故意にひき逃げ・当て逃げをしたわけではないという事案では、事実と異なる供述調書を残されることのないよう、取調べ対応に注意する必要があります。
5 ひき逃げ・当て逃げの刑事弁護のポイント
(1)自首
事件が捜査機関に発覚しておらず、もしくは、被疑者として特定されていない段階であれば、自首を行うことが考えられます。
自首をすることで、罪証隠滅や逃亡のおそれがないことを示し、逮捕・勾留の可能性を下げることができるとともに、法律上、刑の減軽を受けられる可能性があります。
(2)示談
被害者との示談は、より軽い処分を獲得するために最も有力な手段です。
交通事故の場合は、被害者には任意保険により一定の補償を受けることができますが、治療期間などの関係で刑事処分に間に合うとは限りません。
また、被害の内容によっては、必ずしも十分な補償を受けられない可能性があります。
加えて、任意保険に加入していない場合であれば、被害者への補償はごく一部にとどまります。
そのような場合に、早急に自ら一定の損害賠償等を行い、被害者に宥恕してもらうという形で示談を成立させることが考えられます。
(3)無罪獲得に向けた弁護活動
故意にひき逃げ・当て逃げをしたわけではない事案であれば、ひき逃げ・当て逃げについては無罪の獲得を目指すことになります。
そのために、ドライブレコーダー等の証拠や、事故現場の状況、事故の態様などを踏まえて、事故や被害の発生に気付かなかったことを適切に主張していく必要があります。
ただし、ひき逃げについては、故意を欠く場合であっても、被害者を死傷させたことについての過失運転致傷などは別途問題になります。
6 弁護士にご相談ください
事故を起こして動転してしまい、ひき逃げ・当て逃げをしてしまうケースが散見されますが、ひき逃げ・当て逃げは重大な犯罪であり、逮捕・勾留や重い刑を避けるため、迅速かつ慎重な対応が必要となります。
そのため、ひき逃げ・当て逃げについてはできるだけ早く、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
ひき逃げ・当て逃げにお悩みでしたら、当事務所までご相談いただければと存じます。
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