1 漁業法が定める罰則

漁業法は、水産資源の持続的な利用を確保するとともに、水面の総合的な利用を図り、もって漁業生産力を発展させることを目的として制定された法律です。

この目的を達するために、漁業法は、各種違反行為に対する罰則を定めています。以下、主要な罰則について、解説します。

(1)特定水産動植物の採捕禁止

漁業法では、許容された者以外の者による「特定水産動植物」の採捕を禁止しております(漁業法132条1項)。
農林水産省令が定める「特定水産動植物」とは、全長13cm以下のうなぎの稚魚、あわび、なまこです。

この規定に違反して「特定水産動植物」を採捕した場合や、違法に採捕された「特定水産動植物」やその製品を、事情を知りながら運搬・保管・取得・処分の媒介あっせんを行った場合は、3年以下の懲役または3000万円以下の罰金に処するとされています(法189条)。

悪質な密漁に対する罰則強化の一環として、平成30年の漁業法改正により設けられた規定で、漁業法で最も厳しい罰則規定となります。

(2)無許可操業、無免許操業など

無許可操業、無免許操業などの行為は、特定水産動植物の不正採捕に次いで厳しい3年以下の懲役または300万円以下の罰金が予定されています(法190条)。
特定水産資源の超過採捕や、無許可操業、無免許操業、禁止漁業違反等が該当します。

【特定水産資源の超過採捕】
特定水産資源(漁獲可能量による管理を行う水産資源)は、漁獲割当量の設定を受けた者でなければ採捕できません(法25条1項)。
また、設定を受けた者であっても、割当量を超える採捕はできません(法25条2項)。

【無許可操業】
漁業の中には、大臣や知事の許可が必要とされる漁業があります(沖合底引き網漁業、かつお・まぐろ漁業など)(法36条1項、57条1項)。
これらを、大臣や知事の許可なく営んだ場合や、許可失効後、取消し後に営んだ場合には、無許可操業となります。

【無免許操業】
漁業権、または入漁権に基づかずに、定置漁業、または区画漁業を営んだ場合には、無免許操業となります。

【禁止漁業違反】
漁業の中には、農林水産省令や都道府県規則により禁止されているものや、許可が必要とされるものがあります(法119条1項)。
これらに違反した場合には、禁止漁業違反となります。
青森県にも、「青森県漁業調整規則」があり、例として、しじみ漁業は県知事による許可が必要とされています。

(3)漁獲量の報告義務違反

漁業法上、特定水産資源の採捕をしたときは、漁獲量等の報告が義務付けられています(法26条、30条)。
この報告をせず、または虚偽の報告をした場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が予定されています(法193条1号)。

青森県でも、令和3年にクロマグロの漁獲量未報告により、水産仲卸業を営む株式会社の代表取締役が有罪判決を受けた事例があります。

2 漁業法違反事件の特徴

漁業法違反事件、特に、採捕が禁止されている特定水産動植物や特定水産資源を採捕した場合には、「在庁略式」手続がとられやすいと言われています。
裁判管轄の関係上、犯罪地が海上・海中であり、正確に犯行場所を特定できない一方で、被疑者を検察庁に在庁させることで、当該検察庁を管轄する裁判所に管轄を認めることができることが理由の一つとされています。

「在庁略式」の手続は、以下の流れで行われます。
①検察官が被疑者を検察庁に在庁させて、簡易裁判所に略式命令を請求(略式起訴)する。
②即日、略式命令が発せられた段階で、被告人が裁判所に出頭する。
③そこで、裁判所から、略式命令の謄本を受ける。
④罰金又は科料を納付する。

このように、在庁略式の手続は、最も時間のかからない手続とされる一方で、被疑者・被告人の目線からしたら、あれよあれよという間に罰金刑が科され、前科がつくことになります。

3 漁業法違反で逮捕された場合の刑事手続の流れ

漁業法違反で逮捕されることも珍しくありません。

逮捕された場合には、逮捕から48時間以内に、事件が検察庁へ送られます。
検察官は、被疑者から弁解を聞き、引き続き身柄を拘束する必要があると判断した場合には、事件を受け取ってから24時間以内に、裁判官に勾留請求をします。
裁判官は、勾留する必要があると判断した場合には、勾留決定がされます。
勾留期間は、最大10日間ですが、それに追加して最大10日間勾留期間の延長がされることがあります。

そのため、捜査段階では、逮捕から勾留までの最大72時間に、勾留期間の最大20日間を加えた、合計最大23日間、身柄が拘束される可能性があります。

検察官は、この期間内に捜査をし、起訴(略式起訴を含む)するかどうかの判断をすることになります。

4 漁業法違反で逮捕・刑罰を避けるための弁護活動

軽微な漁業法違反であれば、密漁発覚後に、誠実な対応をとることで、漁業協同組合からの厳重注意で終わる(逮捕されずに済む)こともあります。
弁護士が、漁業協同組合との対応窓口となることも可能です。

一方で、警察や海上保安庁により逮捕されるとなれば、原則として、事件は検察官に送致されることになります。
そこで重要となるのが、被害者や漁業協同組合等の漁業権者との示談になります。
その示談の中で、被害弁償を行ったり、告訴の取下げを求めたりすることになるでしょう。

示談が成立した場合、被害弁償ができている場合、前科・前歴のない場合など、被疑者に有利な事情がある場合には、検察官に不起訴処分を求めることで、刑罰を避けることが考えられます。

5 弁護士にご相談ください

在庁略式の手続がとられた場合には、気が付いた頃には前科者となっている可能性があります。
事前に弁護士にご相談・ご依頼をすることで、意見書を提出することなどにより、不起訴処分を獲得する可能性も高まります。

また、逮捕されてしまったときには、身柄が拘束されている以上、自由に被害者と示談交渉することができません。
その場合には、専門的な知識を有する弁護士に相談・依頼し、その後の方針を決定することが重要です。

漁業法違反の刑事弁護についてお困りの方は、当事務所の弁護士にご相談ください。

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