1 医師に特有の刑事事件のリスク

逮捕や勾留、起訴といった刑事手続きに巻き込まれることによる様々なリスクは、あらゆる職業の人について当てはまることですが、医師には、特に医師免許の観点から大きな問題があります。
それは、医師法第7条1項と第4条3号により、医師が罰金以上の刑に処せられた場合、三年以内の医業の停止か、あるいは医師免許の取消し処分を受ける可能性があることです。

もちろん、医業の停止や医師免許の取消し処分になるかどうかは、処分を決める厚生労働大臣の裁量に委ねられており、事案の重大性や社会的影響等、様々な事情を考慮して行政処分が決められることになります。
なお、逮捕されただけでは行政処分を受けることはなく、裁判所の有罪判決を受けて、それが確定することにより行政処分を受ける可能性があるということになります。
この行政処分の在り方については、厚生労働省が「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」というガイドラインを公表しています。
このガイドラインでは、犯罪ごとに大まかな処分の重さが記載されており、医師に対する行政処分を決めるうえで参考にされています。

手続面においては、厚生労働大臣が医師に対し行政処分を行う際、医道審議会に諮問することが医師法第7条3項によって義務付けられています。
医道審議会とは、医師等の医療職にある人に対する行政処分について意見を述べるために医師法によって設けられた会議体です。

また、医師法第7条2項により、医師免許の取消し処分を受けた場合、その処分の日から5年間は免許を受けることができなくなり、これを待機期間といいます。
さらに医師法第7条2項により、再免許の要件として「その者がその取消しの理由となった事項に該当しなくなったとき」とされているため、科された刑罰の内容に応じてさらに期間の経過が必要となります。
それぞれの期間は刑法第34条の2において、刑の消滅期間として定められています。
一例を挙げると、罰金刑の執行を受けた場合には、その後、罰金以上の刑に処せられないで5年が経過していることが必要となります。

まとめると、罰金刑によって医師免許が取り消された場合、罰金刑を受けた日から10年は再免許を受けることができなくなります。

そして、このような法律上のリスクの他に、医師は社会的立場のある職業のため、逮捕されることによって実名報道される事案が多く見られます。
仮に免許取消しとならない場合であっても、実名報道により社会的信用を失い、事実上、医師として仕事をしていくことが難しくなる可能性があります。
このように、医師が刑事事件に関わる場合、刑事処分が医師免許の保持や医業の遂行と密接に関わっているため、他の職業には見られない大きなリスクがあります。

2 医師に特有のリスクを回避するための弁護活動

医師に特有のリスクは、実名報道、次に行政処分といった順番で考えることができます。
もし医師が犯罪を疑われて刑事事件に関与することになる場合、まずは実名報道の回避を第一に検討していきます。
弁護士にご依頼いただいた場合も、これを目標に活動していくことになります。

より具体的には、刑事事件化を防ぐことを目標に被害者へ働きかけていきます。
被害者が警察や検察に刑事事件の被害を申告する前に、示談交渉を進めていくことによって、捜査機関に事件が知られる機会を与えないようにします。
示談が成立した場合には、示談書に被害届を提出しない旨の誓約条項を入れておく必要があります。

さらに警察や検察といった捜査機関に対して、実名報道をしないように要請する要望書を提出することも考えられます。
もっとも、最終的に実名報道するかどうかは警察や報道機関の判断となるため、絶対に実名報道を回避できるものではありません。

被害届が提出されて捜査が開始された場合であっても、最終的には不起訴処分の獲得を目指し、被害者との示談成立を目標に活動していくことになります。
被害者との示談が成立した場合、示談書には宥恕文言(犯人を許し、刑事処分を求めないこと)を入れておくことにより、検察官としては被害者の処罰感情が低いものと判断し、不起訴処分になる可能性が高くなります。

このように、捜査の開始を問わず、医師の刑事事件においては、特に被害者との示談交渉が重要となります。
示談交渉を行うには被害者と連絡を取る必要がありますが、弁護士であれば、検察官を通じて被害者の連絡先を教えてもらえることが多いです。
もちろん被害者の了承がなければ教えてもらうことはできませんが、弁護士であれば教えても差し支えないという方は多く見られます。
連絡先を入手した弁護士は、被害者と交渉を行うことになります。
示談をする際には、多くの場合に示談金が必要となるため、示談金の金額について被害者と交渉を行い、合意ができれば、示談書を取り交わすことになります。

3 弁護士にご相談ください

医師が刑事事件に関与することになる場合、可能な限り迅速に対応することが肝要です。
特に刑事事件化しないことを目標にする場合、被害者が被害届を提出するのと示談成立のどちらが早くなるのか、時間との勝負となります。
このような問題に対処するためには弁護士の活用が不可欠です。
医師の刑事事件でお困りの方は、当事務所の弁護士にご相談ください。

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